ロゼッタストーン東京ARTブログ

小町紅

女性の表情を美しく引き立てる色。 深紅。 化粧法の変遷の中で、日本古来の「紅」は、一般にはもうほとんど使われなくなりました。

かつて、紅の生産をリードしてきた京都の紅屋も次々と廃業してしまい、現在、この貴重な紅を作り続けているのは、東京の伊勢半本店さんだけとなってしまいました。

文政8年に創業されて以来、今でもほとんどの行程を職人さんが手作業で行っておられます。

港区の南青山に、この貴重な紅を見ることができる、伊勢半本店さんの小さなミュージアムがあります...。

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手のひらにすっぽり収まる、小さな有田焼の手まり。 下の器の内側に、紅が刷かれています。 このように、紅は、光で退色しないように陶器や貝殻の内側に何度も塗り重ねて、乾燥させた状態で販売されていました。

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蓋を開けると、玉虫色の紅が現れます。 純度の高い細かい粒子となった紅は、赤い光を吸収してしまい、乾燥すると補色である緑色の輝きを放つのです。 この玉虫色に光る上質の紅は、「小町紅」と呼ばれています。 

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紅の原料となる、紅花。 ちょうど今の季節(6月から7月にかけて)に開花する花です。 実は紅花に含まれる色素の99%は、黄色。 紅の原料となる赤い色素はわずか1%しかありません。 この貴重な赤を抽出する技術は大変難しく、かつて紅は金と等価交換されたほど高価なものだったのです。 紅は、化粧品の他、着物や和菓子の染料としても活用されました。

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紅筆に水を含ませて、玉虫色の紅を端の方から溶いてゆくと、たちまち鮮やかな赤に変わります。 何度も塗り重ねて乾燥させると、唇の上で再び玉虫色に輝きます。 浮世絵に、緑色の唇の女性が描かれていることがありますが、実はこの小町紅を塗った女性たちの絵だったのです。 江戸時代に「笹色紅」と呼ばれる化粧法が一世を風靡したといいます。 


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この愛らしい手まりの小町紅は、美しい化粧箱に入って、赤い縮緬の巾着も付いています。 水溶性の優しい染料は、その人の唇の色になじんで発色します。



伊勢半本店・紅ミュージアムでは、実際に紅を体験できる和化粧の講座も開かれています。 また、現代の漆芸作家の方々との共同プロジェクトで、江戸時代の「板紅」(携帯用の紅入れ)を蘇らせる試みも企画されています。

江戸後期は、刀の鍔などを作っていた職人さんたちが、美術工芸の世界にも参入してきた為、化粧道具にも素晴らしい逸品が残されています。 貴重な紅の歴史に興味があったら、是非このミュージアムを訪れてみてくださいね。





 
★伊勢半本店・紅ミュージアム★  http://www.isehanhonten.co.jp/museum/Link


posted by ロゼッタストーン東京ART at 2013/6/14 12:32 am   commentComment [1]