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頑固な老人への説得工作

to father



 2011年10月17日。今から約2年前の話である。・・・運転免許証を返上させて、直ぐに電動付き自転車を購入した父。数日後、心配していた矢先に、坂をフラフラと両足を広げたまま猛スピードで下って来る父と出くわした。随分前にBLOGニュースで書き綴った事だが・・・たまたまパソコンデータを整理していると、当時、筆者が父に実際に手渡した文書(文書画像上)のデータが出て来たので、恥を忍んで敢えてこの場でご披露したいと思う。

 その時の父の年齢は84歳。・・・現役時代は検察官として目付きも鋭く、多趣味で実に捌けた男だった。よって、息子である筆者が社会人となっても、なかなか気楽に話し掛けてくれる事もなかった。息子としては、現在の家庭の状況や仕事の問題もさることながら、我が家の将来について、しっかり腹を割って語りたかったのだが、筆者が50代になっても、互いのコミュニケーションは皆無に近かった。

 高尚なオーラを放つ頑固な父が満63歳で現役を去り、それから2社ほど企業顧問を歴任し、70歳を過ぎて老後の生活へと突入。その後は、自治会の世話をしたり、趣味のゴルフやドライブに思う存分時間を費やしていた。しかし、浮沈戦艦と自負していた父も、歳を重ねるにつれて段々と縮まり、あっと言う間に、あの大きな背中が小さくなって、ただの白髪の老人と化して行った。

 しかし、強靱な肉体と精神を持つ武士のような父(6歳から剣道を嗜んでおり教士号を持っている)は、欲目で見ても、古老の武士か仙人のような出で立ちとなって行ったのだ。

 人は皆、自分自身が老いて行くのを、心の中で否定したがる。父もご多分に漏れず、彼自身の老化を一切認めようとはしない。・・・しかし、80代となり、フラットな自宅廊下で転んだり、胡座をかいていてそのまま後ろに倒れたりと・・・だんだんと、その老化は顕著になって行く。

 話は前後するが、父の老化が段々と深刻になりつつある事に気付いたのが、前述の電動付き自転車事件だったのである。・・・筆者は仁王立ちとなり父の自転車を制止した。本人は笑って誤魔化していたが、眼光がやや弱まっていたようなので、認知も入り掛けたかと察知したのである。

 道路の真ん中で、本人に「自転車には乗らないでくれ!万が一、歩行者に体当たりして怪我させたり、又は自損事故で死んだらどうするんだ!」と、少々厳しい口調で語ったことを覚えている。しかし、頑固爺は息子の言う事など「戯言」のように受け止めたのだろうと・・・。

 翌日、父の家に行くと、電動付き自転車のバッテリーをちゃっかりと充電しているではないか。・・・「こりゃ駄目だ!」と判断し、直ぐに筆者の自宅へ戻り、上の手紙をワープロで作り、即座に出力して父へ手渡すことにした。

 父の自宅へ行き、父の正面で正座をして一礼、「お父さん。一つお願いがある。これを読んで、考えてくれ!」と、A41枚の上の手紙を渡して、さっと父の自宅を出て行った。

 それでも電動付き自転車はちゃんと有る。・・・また乗るのかと覗き込むと、いつもと様子が違い、自転車には銀色のカバーが掛けられてしまったようだ。

 それから数日後、検察時代の後輩K氏が父の自宅を訪ねて来ていたようだった。・・・K氏は、父とはゴルフ友達で、OBとなっても毎週のように一緒にゴルフを楽しんでいた仲間の一人だった。

 K氏が戻って直ぐに、父から筆者の携帯へ電話があった。「お前が書いたあの手紙を読んで、K氏は感激し、是非自分の息子に見せたいから、その手紙をくれと言って、持って帰って行ったぞ。・・・だから、自転車は乗らないと決めたので、安心して貰いたい。」と、人が変わったかのように、おとなしいトーンで語ってくれたのだった。

 それから1年5ヶ月後の今年3月6日に、父は虚血性心疾患で急死した。痛みも何もなく、息を引き取っていた。・・・たぶん、頑固な仙人は、その当時、自分が世を去るとは予期もしてなかったのだろうと推測するが、自分の両親が老齢になった時に、どう対処すべきかを日々考えさせられた、この2年間でもあった。

 他界するまで医者いらずだった事には感謝したいが、ただ一つだけ心残りは、親子間の胸襟を開いた対話は度々すべきだったと。・・・反省している筆者が居る。


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  • posted by Chikao Nishida at 2013/10/4 09:13 pm

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