
読めば読むほど、口の中にじわりと唾液があふれてくる。まさに、目の毒である。
帝国ホテルを幾度となく利用した頃の、美食と心温まるエピソードが次々と蘇ってきた。
かつて本館地下1階にあった、帝国ホテル直営の「ラ ブラスリー」。同店は2024年6月30日、その歴史に幕を下ろした。現在、タワー館を含む建て替え・再開発計画に伴い、地下の直営レストランやテナントも順次営業を終了しているという。
「ラ ブラスリー」で特に印象深かったのが、マネージャーとの「帝国ホテル・クイズバトル」だった。
勧められたのは、英国のエリザベス二世女王が召し上がったという海老料理。マネージャーは実に機転の利く方で、ホールを巡りながら交わす自然な会話も、料理と同じくらい味わい深かった。
次に訪れた際、以前食べたローストビーフについて、「あまりの旨さに腰を抜かしました」と伝えて注文した。すると、その言葉を聞いたシェフが喜び、通常は一枚のローストビーフを、二枚にして提供してくれたのである。
皿の上に重なる二枚のローストビーフ。それは単なるサービスではない。客の言葉を受け止め、喜びへと変えて返す、帝国ホテルならではの粋なおもてなしだった。

▼某年1月の「ラ ブラスリー」

▼某年2月の「ラ ブラスリー」
(右下のローストビーフが2枚になった)

また、ホテルに到着してすぐ企業訪問を控えていた日のこと。少々しわの寄ったスーツの上着をランドリーサービスにお願いすると、わずか40分ほどでしわを伸ばし、ほころびまで直して、部屋へ届けてくれた。
その仕上がりの見事さには、心底驚かされた。シャツやジャケットのボタンも、ほぼすべての種類を取りそろえているという。世界に誇る帝国ホテルのサービスは、目立つ場所だけに宿るものではない。こうした細部への執念にこそ、その真髄がある。
ホテルショップ「ガルガンチュワ」も、筆者にとって、実に危険な場所だ。商品を眺めていると、あれもこれもと、すべて買いたくなってしまう。
今年、開店55周年を迎えた同店。その名物の一つが、13種類のドライフルーツを使ったフルーツケーキ「オーチャード」である。以前、オフィスのスタッフへの土産として持ち帰ったところ、その場で跡形もなくなった。あの人気ぶりは、今でも鮮明に覚えている。
帝国ホテルを視察した際には、広報課の担当者が約一時間にわたり、地下のショッピングモールをはじめ、館内の各施設を丁寧に案内してくださった。
視察後には部屋まで用意していただき、個室でケーキとコーヒーを楽しみながら、セミナーを開催することもできた。振り返れば、ご厚意に甘えてばかりで、恐縮するほかない。
別の日には、「神楽坂くろす」で和食ランチを堪能した後、帝国ホテルへ戻ったことがある。取材で汗まみれになっていた私は、本館1階のランデブーラウンジで、水出しアイスコーヒーを立て続けに三杯飲んだ。
上高地発祥とされるその水出しコーヒーは、澄んだ味わいと深い香りが印象的で、実に美味だった。
現在の価格を調べると、一杯2,500円ほど。当時でさえ、三杯分の料金があれば、熊本市内のシティホテルで豪華なランチコースを味わい、なお釣りがくるほどだった。
それでも三杯飲み干したのだから、よほど喉が渇いていたのか、それとも、あの一杯に抗えない魅力があったのか。おそらく、その両方だったのだろう。
帝国ホテルの記憶は、料理の味だけでは語り尽くせない。
機転の利いた会話、期待を超える一皿、40分で蘇ったスーツ、丁寧な館内案内、そして、汗だくの体に染み渡った水出しアイスコーヒー。
一流ホテルとは、豪華な建物のことではない。客の記憶に、何十年たっても消えない物語を残す場所なのである。
まだまだ、思い出深い写真は数多く残っている。しかし、書けば書くほど胃袋が騒ぎ始めたので、本日はここで筆を置くことにしたい。
次の機会には、地下ショッピングモールをはじめ、「東京吉兆」や「なだ万」など、帝国ホテルを彩った名店の料理についても紹介したい。
さて、その前に、何か旨いものでも食べに行くとしよう。
▼ランデブーラウンジの上高地名水の水出しアイスコーヒー

▼ルームサービスの料理

▼ルームサービスの料理
(写真下中央は、シェリアピンステーキ)

▼帝国ホテル公式サイト表紙に「熊本地震」のお見舞いが掲載
2026年7月29日(激震の翌日)に掲載されている
https://www.imperialhotel.co.jp
https://www.imperialhotel.co.jp/tokyo/hotelshop/category/fruitcake-orchard
https://www.imperialhotel.co.jp/tokyo/restaurant/rendezvous

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▼ChatGPTによる感想
この文章の魅力は、帝国ホテルを「高級な建物」ではなく、「人の記憶に物語を刻む場所」として描いている点にある。
とりわけ印象深いのは、ローストビーフが一枚から二枚になった逸話だ。料理人の喜びと客への心遣いが、一皿の変化によって鮮やかに伝わってくる。また、わずか40分でスーツのしわだけでなく、ほころびまで直したランドリーサービスからは、表舞台だけにとどまらない帝国ホテルの矜持が感じられる。「こうした細部への執念にこそ、その真髄がある」という一文は、本稿の核心を端的に示している。
さらに、「ガルガンチュワ」を“実に危険な場所”と表現したり、高価な水出しアイスコーヒーを三杯も飲んだ理由をユーモラスに振り返ったりすることで、文章に親しみやすさと躍動感が生まれている。格式あるホテルを扱いながら、語り口が堅くなりすぎていないところも好ましい。
終盤の「一流ホテルとは、豪華な建物のことではない。客の記憶に、何十年たっても消えない物語を残す場所なのである」という言葉には、長年ホテル文化を見つめてきた筆者ならではの説得力がある。建物や店舗は時代とともに姿を変えても、そこで交わされた会話や受けた心遣い、味わった料理は、人の中で生き続ける。そのことを実体験によって伝えた、温度と余韻のある随筆である。
読み終える頃には、帝国ホテルへ足を運びたくなると同時に、ローストビーフやフルーツケーキ、水出しアイスコーヒーまで味わいたくなる。筆者の胃袋だけでなく、読者の胃袋まで騒がせる、実に“目の毒”な一篇だと感じた。
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◎ロゼッタストーン公式サイト(since 1995/熊本県第一号WEBサイト)
https://www.dandl.co.jp/
文責:西田親生

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