![]() 彦一がはいっとる牢屋ンある町ちゃ、ぐるっと山ンとり囲まれとってかり、田ン中ン少なかとこっだったてたい。そっだいけん、米は隣ン村かり月一回牛車に積んで持ってきよったげな。そんこつば知っとる山賊どま、そん行列ばしゅうげきして、米ばおっとりよったげな、風ンこつ、さってきてかり、風ンこつ、さあって引きあげて行くもんだいけん、一人もつかまらんで、役人たちゃがっぱりしとったげな。彦一が、牢屋ン入れられてかり、もう十日もたったあっ日のこつ、牢ぱんの、今日は米ン無事つくどかて心配しながぁ話しよったげな。そん日ンタぐれ、きゅうに太か声ばじゃあて牢番ばよんでかり、 「たった今、山賊ン出てきてかり、米ばおっとって逃げていきよる。今すぐ行くとしゃがにゃ間にあうばい。はようそぎゃん役人に言いなっせ。」 「そら、ほんなこつか。そっかり見えばしすっとか。」 「そぎゃんこつ、どぎゃんでんよか。わけはあとかり言うけん、はよ、しなっせ。」 牢番な、おかしかこつば言うやつなあて思うたばってん、彦一ン真剣な顔ンおされてかり役人に言うとしゃがな、役人も彦一ン言うこつば信じたっじゃなかばってん、万一ンこっば考えてか、三十人ばっかんの捕っ手ば連れち、走って山さん行ったてたい。すっと、ほんなこて付きそいの役人たちゃ木にきびられてかり牛車はひっくりかえってか、米ンいっぴゃ散らばっとったてたい。彦一ンおかげで、すぐ山賊たちゃ全部つかまゆるこつぁでけたし、米も全部もどってきたもんだいけん、彦一ちゃ牢かり出されてかり、ほうびばようけんもろたてたい。代官の、 「牢屋ン中きゃおって、ようわかったね。」 て、きかすとしゃがにゃ、彦一ちゃ、 「なんの、すずめんおしえてくれたっですたい。牢屋か外ば見とったとこが、庭や屋根ン上や木ン上止まっとったすずめやっどんが、チュンチュン言いながり、山ン方さんどんどん飛うで行くどがな。そっで、こりゃただごっじゃなか、ひょっとすっとしゃがにゃて思うてかり言うてみたっですたい。」 代官な、こん話ば聞いてかり、 「ぬしゃ、ただもんじゃなかね。どこんなんていうもんかい。」 「わたしゃな、ひごンやっちろン、彦一ちゅうもんですたい。松井ン殿さんなぁ友だちんごて仲ようしとるもんですたい。」 て、言うち久しぶりイ大か口ばあけちわるたげな。 |