第37話 わたかい

イラスト

中嶋ン町ィよくンふきゃー、わた屋ンあったげなたい。いなかもんてみたなら、高こうわたばうりつけよったげな。彦一が、こりばきいて、わたきゃぁ行ったげな。

「ごめんなっせ、わたん実ば五しょうばっかりくだり、実はなぁ、わたかりおとしたっでなかれんば、こまっとですたい。」

「ああ、そぎゃんかいた。ちょっと、まっとんなっせ、今おとしてやりますけん。」

わた屋は、いせえで十貫目ばっかんのわたばじゃあてきて、実ばとっだしたげな。彦一ァそうば見て、 「そん実のはいっとるわたは、いくらでっしゅか。」

「こらあな、まあまけといて二円がっぐんにゃでっしゅな。」

「ほう、たっかですな。」

「ちかごら、何でんあがるもんだけんな。」

話しばしとるうちい、実ばとってしもうて、

「またせましたなあ。すんまっせん、ちょうど五しょうありますばい。」

「いくらでっしゅか。」

「あんただけん、一円二十せんにまけとくたい。」

「そら高すぎるばい。うん、そんならせっかくだけん、実ばとった残りンわたでよかたい。ぜんぶで八十せんですたいな。」

彦二は十貫もあるわたば、八十せんでこうて、さっさもどったげな。番頭どんな、ぢだんだふんで、くやましたげな。


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