第33話 木の子

イラスト

松井のとんさんな、きのこん、そうにゃ好きだったげな、ある年、

「一軒かり千本ずつ、木のこばもってけ。」

て、役人どんが彦一ン村もいうてきたばってん、こんとしゃ、また、とつけみにゃでけん年だったげな。どぎゃんすんならよかろかていうち、村ンもんがこまってしもうとるとこれ、彦一がきたけん、彦一ィたのんだげなたい。彦一ちゃ、木の苗ば千本もって、役人のとこれいったげなたい。

「きのこば、もってきましたばい。」

役人たちが、中ばみて、

「彦一、こら、きのこじゃなかじゃなっか。」

「そぎゃんこつあなかでっしゅが、きの子ですばい。」

「ばかんこついうな、きのこてにゃ、しいたけんこつぞ。」

「ああ、そぎゃんでしたか、しいたけならもうありまっせんたい。」

「しょんなかたい、来年なまちがわんごっもってけよ。」

「そぎゃんかいた。しなら、もう一ぺんききますばってん、きのこていうとは、しいたけんこつ。しいたけていうとは、きのこんこつですな。」

「うん、そぎゃんたい。まちがゆんなよ。」

「はい、はい。」

彦一ちゃ、そんままもどされたげな。とこるが、あくる年の秋、まぁた、役人のきて、

「一けんかり千本ずつ、しいたけばもってけ。」

て、いうて、ねんばおしてもどったげな。ふのわるかこてにゃ、まぁた、でけんだったけん、だぁるもこまってしもうた。しょんなしゃ彦一が、また木の苗ばかるうて、いったったい。役人たちゃ、こんだ彦一もどぎゃんでけみゃて話しよっとけもってきた。なかばあけてみたりゃ、木の苗ばつかり、

「こら、彦一、とぼくんな。あぎゃんいうたて、まぁた木の苗ばもってきたじゃなっか。」

「はい、まちがわんごつもってきましたばってん、何か。」

ちゅうて、とぼけたつらして、

「あって、去年のこつ、きのこていうたぁ、しいたけんこつ、しいたけちゅうとは、きのこんこっていいなはったけん、ことしゃよかろうておもうて、きたっですたい。」


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