第32話 お金もち

イラスト

ぜんもたん彦一だけん、うんと彦一ィ頭ばさげさしゅておもて、きつねが綿屋金兵衛ちゅう八代一のぶげいしゃにばけち、萩原ン土手、まっとったげな。とこるが、彦一も錦屋ンだんなんのこぎゃんとこり一人おらすはずァなか、ておもてぴんときたもんだけん、知らんふリばして通ろうてしたりゃ、

「彦一、どけいくとかい。」

ちゅうて、声はかけち来た。

「あらら、こら、綿屋ンだんなさん、よかとこりあいました。こんまえんこた、うもう話のつきましたばい。」 「そぎゃんか、そらよかった。」

「これかり、いたてみまっしゅか。」

「うん、よかたい。お礼はうんとすっぞ。」

きつねは木の葉の金ばふところかり、うんとばっかり、ぢゃあてみせた。

「まあ、お礼のなんのて、あとでよかですばい、なんさま熊本にも、なかごたっとばもらうごつしとります。」

「えッ…-。」

「太さは仔牛ぐんにゃで、番犬にゃもってこいですたい。」

犬ときいて、つらの色、失のうた、きつねば見て、

「どろうぼん番、猟、特にきつね、たぬきゃ生かしちゃおきまっせん。」

「ひ、彦一・・・・・。」

きつねは、悲鳴ばあげて逃げたげな。


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