![]() ぜんもたん彦一だけん、うんと彦一ィ頭ばさげさしゅておもて、きつねが綿屋金兵衛ちゅう八代一のぶげいしゃにばけち、萩原ン土手、まっとったげな。とこるが、彦一も錦屋ンだんなんのこぎゃんとこり一人おらすはずァなか、ておもてぴんときたもんだけん、知らんふリばして通ろうてしたりゃ、 「彦一、どけいくとかい。」 ちゅうて、声はかけち来た。 「あらら、こら、綿屋ンだんなさん、よかとこりあいました。こんまえんこた、うもう話のつきましたばい。」 「そぎゃんか、そらよかった。」 「これかり、いたてみまっしゅか。」 「うん、よかたい。お礼はうんとすっぞ。」 きつねは木の葉の金ばふところかり、うんとばっかり、ぢゃあてみせた。 「まあ、お礼のなんのて、あとでよかですばい、なんさま熊本にも、なかごたっとばもらうごつしとります。」 「えッ…-。」 「太さは仔牛ぐんにゃで、番犬にゃもってこいですたい。」 犬ときいて、つらの色、失のうた、きつねば見て、 「どろうぼん番、猟、特にきつね、たぬきゃ生かしちゃおきまっせん。」 「ひ、彦一・・・・・。」 きつねは、悲鳴ばあげて逃げたげな。 |