第29話 とっくりのなぞ

イラスト

 光徳寺の珍念な、頭ンわるか上、大ぐらいだったげな。ある日、和尚さんの小僧ばようで、

「珍念、十三里うまかつばこっけ」

て、いうて使いに出さしたげな。ところが、しょぼたれてもどってくると思うとったら、元気ゆうもどってきた。

「和尚さん、こっきました。はい。」

和尚さんな、にこにこしてうけとらしたばってん、ピンとこらしたげな。あくる日、また小僧ばようで、

「酒ば、二升こっけ。」

て、いうて一升どっくりばやらしたげな。

「和尚さん、こら一升どっくりでっしゅ、二升は、ひゃりまっせんばい。」

和尚さんな、小憎ばにらみつけち、

「とっくりきいてみれ。」

ぽかんとしとる小僧に、

「よかか、昨日は安かったばってん、今日んとは彦一でんとっきりみャ。」

て、いうて、はってかした。

小僧は、とっくりばかかえて、また彦一んとこりいたて、

「彦一ちゃん、たすけっくだり。」

「どぎゃんしたつな、とっくりばかかえて。」

「あって、こんとっくりに、酒ば一升こっけ、わからんなら、一升どっくりィきけ、彦一もわかりみゃぁて。」

「そぎゃんな、とこっで、とっくりきいてみたかな。」

「そぎゃんいうたって、とっくりのものばいうもんな。」

「あって、和尚さんなとっくりきけていわしたろもん、うそはいわっさんどもん、どう、おるがきいてみろか。」

彦一が、とっくりィ耳ばひっつけて、

「とっくりどん、あんたん腹にャ、酒一升入るかな・・・、なん、一升しきゃ入らん、あ、小僧さんの腹が、うらやましか・・・。あ、小僧さんの腹がそぎゃんひろがっと、子どんがくせ、大人ンしこめしばくう・・・、うん、そんかわり、やんもせんばってん、小僧さんな、ようだり、ぼやっとしたり…、なに人間のくずばい・・・、そぎゃんな、わかった、わかった、そぎゃん言おう。」

「珍念どん、いまんときいたな。」

小僧は、つらばまっきゃして、

「彦一ちゃん、ようわかりました。こりかり気ばつけます。」

「えらか、和尚さんもよろこばっしゅ。」

大ぐりゃばやめた珍念もよか和尚さんになったげな。


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