![]() 彦一は貧しかけん、大晦日は借金取りの来て、いつもおおごとだったげな。 ある年の暮れ、彦一は裏庭で瓦をやたらわりだしたげなもん。よめごは、そーにゃ心配したげなばってん、彦一は、 「心配すんな、なんとか銭のくめんばすっとたい。」 と言わしたげな。 そん頃、毎晩、松馬場に、おいはぎの出よったげなもん。彦一は、そん、おいはぎから刀ばおっとって、それば売ってよか正月ばしょうと思っとったったい。 彦一は、瓦ば木の箱に入れ、油紙できれいに包ましたったい。そして、その上に御用金と書いてはらしたったい。 彦一は用意のできたけん「ふ」ばこうて来て頭につけ、脚絆ばはき、日が暮れてから松馬場に行ったげな。 あんのじょう、おいはぎが来て、 「待て、待て、待てというどが。」 と呼びとめたげなもん。彦一は、 「なんな、おらぁ御用金ばもっていかんばんけん急ぐとたい。」 と言うと、おいはぎは 「ぬしゃ、そーんきつかごたるね、おれがかせいしょうか。」 といわしたったい。 「うん、そりゃありがたか、そんなら、ぬしが刀ばもってやろうたい。」 といって箱をわたし、刀を受けとったったい。おいはぎは、箱をかついで走ったもんだけん、彦一は、 「早かぞ、そぎゃん急ぐな、急ぐな。」 といいながら、うしろさん走っていって、刀ばとりあげたげな。 |