第21話 おいはぎと刀

イラスト

彦一は貧しかけん、大晦日は借金取りの来て、いつもおおごとだったげな。 ある年の暮れ、彦一は裏庭で瓦をやたらわりだしたげなもん。よめごは、そーにゃ心配したげなばってん、彦一は、

「心配すんな、なんとか銭のくめんばすっとたい。」

と言わしたげな。

そん頃、毎晩、松馬場に、おいはぎの出よったげなもん。彦一は、そん、おいはぎから刀ばおっとって、それば売ってよか正月ばしょうと思っとったったい。

彦一は、瓦ば木の箱に入れ、油紙できれいに包ましたったい。そして、その上に御用金と書いてはらしたったい。 彦一は用意のできたけん「ふ」ばこうて来て頭につけ、脚絆ばはき、日が暮れてから松馬場に行ったげな。

あんのじょう、おいはぎが来て、

「待て、待て、待てというどが。」

と呼びとめたげなもん。彦一は、

「なんな、おらぁ御用金ばもっていかんばんけん急ぐとたい。」

と言うと、おいはぎは

「ぬしゃ、そーんきつかごたるね、おれがかせいしょうか。」

といわしたったい。

「うん、そりゃありがたか、そんなら、ぬしが刀ばもってやろうたい。」

といって箱をわたし、刀を受けとったったい。おいはぎは、箱をかついで走ったもんだけん、彦一は、

「早かぞ、そぎゃん急ぐな、急ぐな。」

といいながら、うしろさん走っていって、刀ばとりあげたげな。


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