![]() 春先きになって、値段の安うなったブリが、今日は大分とれとると聞いて、近所の弥市どんが、 「おい彦一、久しぶりブリば腹一ぱい食うてみゆうかい。」 「タダのごたるげな。」 「よかたい、行こい。」 二人つれだって、中島町のサカナ屋から一尾ずつ買(こ)うて、出町までもどりよったら、途中でむごうふとか犬やつが、そのブリばめがけてほえかかって来た。弥一どんないっさんに逃げだした。 彦一は尻ばからげて、ゆるっと四つん這いになって、ブリばくわえたげな。犬は仲間のくわえとっとは、とられんばし思うたもねろ、弥一どんば追っかけたもんだけん、弥一どんな、えいっとかけごえかけてぶりやらしたげな。 |