彦一が、熊本からのもどり道、宇土の茶店でおもしろか話しで皆をワンワンはずませた。出かきゅうとしたら、 「八代へ行くとは幸い、同道いたせ。」 と、二人の武士が、しゃりむり道連れにしたげなもん。 「しもうた。」 と思うたげなばってん 「ヘイ、ヘイ。」 と、手ばこすり合わせち、ついて行ったげな。一人の方は、鼻がつっかげとったげなもんだけん、妙な声で、 「ハナセ、ハナセ」 と、話ばさいそくする。その「ハナセ、ハナセ。」が気味の悪かもんだけん、 「決して立腹なさいますなよ。」 と、ことわって、 「竜峰山にすむ天狗が、相撲ばとろうとせがみますので、ヨシと言うて取り組みましたが、その力の強さ、強さ。パッと離れて天狗の高い鼻に両手でぶらさがりました。そしたら妙な声でハナ セ、ハナセと言いました。」 「無礼者!」 と、刀に手をかけた武士を、一方がとめて、 「早う去がれ。」 と、言うたげな。 |